脂質異常症とは

脂質異常症イメージ

脂質異常症は、コレステロールや中性脂肪などの脂質代謝に異常を生じている状態です。
コレステロールや中性脂肪というと、健康に悪いというイメージを持たれる方も多いのですが、コレステロールは細胞膜や、ホルモン、胆汁酸のもととなり、中性脂肪(トリグリセライド)はエネルギーを貯蔵する役割を担いますから、本来どちらも人体に欠かせない重要なものです。
しかし、これらが正常範囲を超えてしまうと体に問題を引き起こします。
具体的には、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)の値が高すぎる、あるいは善玉(HDL)コレステロールの値が低すぎる場合です。
悪玉(LDL)コレステロールは、コレステロールを血管に運び、余分なコレステロールがあると血管の壁に沈着させ動脈硬化を引き起こします。
逆に、善玉(HDL)コレステロールは血管壁に貯まったコレステロールを回収し、肝臓へ戻すように働くのです。
最新のガイドラインでは、脂質異常症を以下のように分類・診断します。
初めて“随時”トリグリセライドの基準値(175mg/dL未満)を設定したことが改定点となっています。

脂質異常症診断基準(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より引用)
LDLコレステロール 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセライド 150mg/dL以上(空腹時採血) 高トリグリセライド血症
175mg/dL以上(随時採血)
Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症

脂質異常症と動脈硬化

ほとんどの患者様は、脂質異常症と診断されても自覚症状が現れることはありません。
そのため健康診断などで判定を受けても、そのまま放置されることが珍しくないのです。
しかし、放置されてしまうと、血管壁に余分なコレステロールが沈着し、プラーク(粥腫)と呼ばれる塊が作られ、時間経過とともに血管の壁がどんどん分厚くなって内腔が狭まり、詰まりやすい状態となってしまいます(粥状動脈硬化)。
血管が詰まってしまうと、心筋梗塞や脳梗塞など、生命に影響を及ぼすような重篤な病気を発症することになります。
このため、高血圧糖尿病といった他の動脈硬化の原因疾患と同様に、しっかりと治療を行っていくことが重要となるのです。

発症の原因によって、原発性脂質異常症と続発性脂質異常症に分けられます。
前者は、体質や遺伝的異常によるもので、家族性高コレステロール血症が代表的ですが、他にも国の指定難病に指定され、医療費助成の対象になっている疾患も複数含まれます。
後者は二次性脂質異常症とも呼ばれ、他疾患や薬の副作用などによって生じるものです。
代表的な疾患として、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、慢性腎臓病の他、糖尿病や肥満も挙げられます。
その他、薬剤(利尿薬、β遮断薬、ステロイドなど)や、アルコール多飲や喫煙といった生活習慣も原因となります。

治療について

脂質異常症における脂質管理目標値は、一次予防と二次予防に大別して考えます。
一次予防においては、年齢や性別、血圧、喫煙の有無、合併疾患(糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患)等から、3段階にリスク分類し目標値を決定していきます。
二次予防は、冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の既往がある方が対象となり、より厳格な管理が必要となります。
このように、患者様の状態に合わせて、個別に目標値を設定して治療を進めていくことが重要となるのです。
一次予防、二次予防いずれの場合でも、まず必要となるのは生活習慣の改善です。
禁煙、過度な飲酒を避ける、食事療法、運動療法が柱となります。
食事に関しては、過食を避け適正な体重を維持すること、肉の脂身・加工肉・鶏卵の大量摂取を控え、魚や低脂肪乳製品・野菜・海藻・大豆・ナッツ類の摂取量を増やすことがポイントとなります。
運動に関しては、歩行・ジョギング・水泳などの有酸素運動と、腹筋・ダンベル・スクワットなど筋力トレーニングによるレジスタンス運動がありますが、いずれも血清脂質を改善することがわかっており推奨されます。
有酸素運動は、一日合計30分以上、週3回以上(可能であれば毎日)、または週に150分以上実施することを目標としましょう。
生活習慣の改善で目標が達成できない場合は、薬物療法を考慮します(二次予防が必要な方に対しては、生活習慣の是正と同時に薬物療法も開始します)。
薬物療法の中心となるのは、強力なLDLコレステロール低下作用を有するスタチンです。
スタチン単独で目標LDLコレステロール値を達成できなければ、エゼチミブ(ゼチーア®)を併用とし、それでも効果不十分の場合はPCSK9阻害薬(レパーサ®、プラルエント®)皮下注射が選択肢となります(2023年現在、PCSK9阻害薬の経口薬も臨床試験が進んでいます)。
このように、まずはLDLコレステロール目標値達成を目指すわけですが、目標達成後もトリグリセライド高値の方には、イコサペント酸エチル(エパデール®)を併用します。
特に高リスクの方や著しい高トリグリセライド血症の方には、フィブラート薬の併用も考慮しますが、スタチンとの併用で横紋筋融解のリスクが高まるため慎重な検討が必要となります。
特に、腎機能障害のある患者様へのフィブラート薬は原則禁忌でしたが、近年、選択的PPARαモジュレーターに分類されるペマフィブラート(パルモディア®)が腎機能障害患者様にも慎重投与可能となったことで、適応の幅が広がっています。