糖尿病とは

糖尿病イメージ

私たちが食事で摂取した炭水化物は、消化によってブドウ糖となり、小腸から血液中に吸収されて、全身の細胞に取り込まれエネルギー源として利用されます。
血液中のブドウ糖を「血糖」といい、血糖値とは血液中のブドウ糖の量をあらわします。
食後は血糖値が高くなりますが、健康な人では膵臓から分泌されるインスリン(ホルモンの一種)の働きによって、ブドウ糖は速やかに細胞に取り込まれ利用されるため、血糖値は極端に変動することなく一定の範囲内でコントロールされています。
このインスリンの作用が不足すると、ブドウ糖が細胞に取り込まれず血液中に留まりますから、慢性的に血糖値が上昇したままになってしまいます。
これが糖尿病です。
膵臓からのインスリン分泌自体が不足する場合と、分泌されても効き目が悪くなる場合(インスリン抵抗性)があり、これらが糖尿病発症のメカニズムとなっています。

血糖値が高い状態が続いても、初期には自覚症状がみられないことが多く、発見が遅れることがあります。
これが糖尿病の怖いところです。
ある程度進行してくると、尿量が増える(多尿)、のどが渇いて水をたくさん飲むようになる(口渇、多飲)、体重減少、全身倦怠感などの症状があらわれます。
未治療のまま放置されてしまうと、やがて血管が障害され、さまざまな合併症が起こる危険性が高まります。
とくに、細い血管が集まる網膜・腎臓・末梢神経に障害を起こすことが多く、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害は3大合併症と呼ばれています。
網膜症は目のかすみ、視力低下といった症状から始まり、進行すると失明してしまうこともありますので、糖尿病と診断された方は必ず眼科を受診するようにしましょう。
腎症は、血圧の上昇、蛋白尿、むくみといった症状があらわれ、進行すると腎不全となり人工透析が必要となる場合があります。
透析導入の原因の第1位は糖尿病腎症です。
神経障害では、手足のしびれやほてり、痛みなどがあらわれます。
足の感覚が麻痺することによって、傷ができても気づかずに放置されてしまい、潰瘍や壊疽に陥ることもありますから、足の清潔を保ち常に注意を払っておくことが大切です。
このように細い血管が障害される3大合併症の他にも、糖尿病は、より太い血管に動脈硬化を引き起こすことで、脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)などの重篤な合併症のリスクを上昇させます。

糖尿病の種類

発症の原因によって、①1型糖尿病、②2型糖尿病、③その他の特定の機序・疾患によるもの、④妊娠糖尿病の4つに分類されます。
①1型糖尿病は、主に自己免疫反応によってインスリンを作る膵臓の細胞が破壊され、インスリンがほぼ分泌されなくなることで血糖値が高くなります。
インスリン注射が必須となるため、以前は「インスリン依存型糖尿病」とも呼ばれていました。
何歳でも発症しますが、小児~思春期に多くみられます。
②2型糖尿病は、インスリンの分泌が少なくなったり、働きが悪くなったりすることで、相対的にインスリンが不足するために起こります。
主に中高年以降にみられますが、若年者の発症も増加しているため注意が必要です。
遺伝的な体質に加え、過食(とくに高脂肪食)、運動不足などの環境因子が加わって発症するとされています。
このため、2型糖尿病は「生活習慣病」の一つとして扱われるのです。
日本の糖尿病患者様の約9割が、この2型糖尿病とされています。
③その他の特定の機序・疾患によるものは、遺伝子異常の他、糖尿病以外の病気や薬剤の影響で血糖値が上昇し、糖尿病を発症するケースです。
④妊娠糖尿病は、妊娠中に初めてわかった糖代謝異常(まだ糖尿病には至っていない状態)をいいます。
妊娠中はわずかな高血糖でも胎児に影響を与えるため、糖尿病ではなくても「妊娠糖尿病」と呼び、食事療法や必要に応じてインスリン治療を行ってきちんと管理をしていく必要があるのです。

検査について

糖尿病の診断には、血液検査が必要となります。
血糖値の他、過去1~2ヶ月の血糖を反映する指標HbA1c、必要に応じて75gブドウ糖負荷試験(75gOGTT)を行って診断に至ります。

①早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上
 または
75gOGTT 2時間値 200mg/dL以上
 または
随時血糖値 200mg/dL以上

②HbA1c 6.5%以上

※①と②のいずれか1つを満たす場合を「糖尿病型」と判定し、別の日の検査でも「糖尿病型」と判定されれば、糖尿病と診断されます(HbA1cのみでの診断は不可で、必ず1回は血糖値の基準を満たす必要があります)。
血糖値とHbA1cを同時測定し、①と②を両方満たした場合は、初回検査のみで「糖尿病」と診断されます。
ただし、糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)が認められる場合や、確実な糖尿病網膜症の診断がついている場合は、1回の「糖尿病型」判定のみで、糖尿病と診断できます。

治療について

治療の目的は、血糖値をコントロールし、合併症(網膜症、腎症、神経障害、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患など)を起こさせないこと、また既に合併症のある方は今よりも悪化させないことです。
治療アプローチは、糖尿病のタイプによって異なります。

1型糖尿病の患者様では、インスリンがほとんど分泌されていない状態なので、生存のためにインスリンを体外から補充していくインスリン療法(インスリン注射)が必須となります。

2型糖尿病の患者様では、まずは生活習慣の見直し(食事療法、運動療法)から始めていきます。
食事療法は糖尿病治療の基本であり、治療の根幹をなすものとなります。
適切なカロリー摂取量を守り、バランスの取れた食事(食品交換表を用いるなど)に努めるようにしていきます。
その他にも、食べ方の工夫として、よく噛んで時間をかけてゆっくり食べる、食物繊維の多い野菜から先に食べる、タンパク食品を主食より前に食べる、といった方法も取り入れていきましょう。
また、運動療法はインスリンの働きを改善させることがわかっています。
具体的には、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を、1回15~30分程度、週3~4回定期的に行うことで効果が現れます。
時間帯はいつでも構いません。
このような有酸素運動を中心として、筋力運動(レジスタンス運動)や、柔軟運動、バランス運動等を組み合わせて取り組んでいきます。
強めのスポーツや労働を希望する場合には、事前に循環器的精査を行う必要もありますから、是非ご相談ください。
その他の生活習慣改善のポイントとしては、十分な睡眠や休養、規則正しい生活リズム、口腔ケア(歯周病の予防と治療)、禁煙の徹底などが挙げられます。

生活習慣の改善だけでは血糖コントロールが難しいとなれば、薬物療法を併用していきます。
作用機序によって、インスリン分泌を促進させないタイプ(α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬、チアゾリジン薬、ビグアナイド薬)、インスリン分泌を促進させるタイプ(血糖依存性:イメグリミン、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、血糖非依存性:SU薬、グリニド薬)に分けられますが、このように多くの種類の中から、患者様の病状や併存疾患に合わせ、最適な薬剤を選択していくことになります。
複数の薬剤を併用する場合も多いのですが、近年では様々な合剤も発売されており、服薬する種類や錠数を減らして患者様の負担を少なくすることができるようになってきていています。
治療薬の進歩は著しく、様々な新薬も次々と登場しています。
近年のトピックとして、2021年に発売されたイメグリミン(ツイミーグ®)は、これまでの薬剤とは異なる機序で、血糖依存性にインスリン分泌を促進するとともに、インスリン抵抗性改善作用も持ち合わせます。
特にDPP-4阻害薬との併用によって高い血糖改善効果が示されており、2022年9月からは長期処方も可能となりました。
他にも、持続性GIP・GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(マンジェロ®)が2023年4月に発売され、週1回使用(皮下注)で、血糖依存性にインスリン分泌を促し、強い肥満改善効果も期待されています。
食事・運動療法と合わせ、糖尿病治療の早期から使用可能な薬剤となっています。
これらの薬剤で、良好な血糖コントロールが得られない場合や、著明な高血糖(空腹時血糖250mg/dL以上、随時血糖350mg/dL以上など)を認める場合、やせ型で栄養状態が低下している場合などは、2型糖尿病であってもインスリン療法が必要となります。