冠動脈疾患/虚血性心疾患

冠動脈疾患/虚血性心疾患イメージ

心臓は全身に血液を送るポンプとして働き、人体のあらゆる臓器や組織に絶えず血液を供給することで、生命活動を維持しています。
もちろん心臓自体にも血液供給が必要なわけで、そのための血管が心臓を取り囲むように3本存在しています。
これが「冠動脈」です。
この冠動脈に生じる病気を「冠動脈疾患」、冠動脈疾患によって心臓への血液供給不足が生じたものを「虚血性心疾患」と呼び、どちらもほぼ同じ意味で用いられます。
狭心症や心筋梗塞は、動脈硬化によって引き起こされる冠動脈疾患です。
近年は、狭心症/心筋梗塞と区別するよりも、“安定冠動脈疾患”と、“急性冠症候群”に分けることが多くなってきました。
冠動脈の血管壁に、動脈硬化によってプラークが形成され、徐々に成長することで血管が狭くなってしまい、運動した時などに胸の痛みや圧迫感を感じるのが安定冠動脈疾患(≒労作性狭心症)です。
このプラークの成長によって病気も進行し、血管がより狭くなってしまうことで症状も強くなっていきます。
これに対し急性冠症候群は、このプラーク成長過程とは一線を画したイベントで、心事故として扱われます。
何らかのきっかけでプラークが破裂すると、その破裂した場所に急速に血栓が形成され、そこから先の血流が滞ってしまい、運動とは関係なく強い胸の痛みが突然出現してしまいます。
これが急性冠症候群で、心臓の筋肉へのダメージによって不安定狭心症と急性心筋梗塞に分類されます。
心筋梗塞は、突然死にもつながる怖い病気というイメージがあるかと思いますが、不安定狭心症も心筋梗塞一歩手前の状態ですから、心筋梗塞と同様に急性冠症候群として扱い、迅速かつ慎重な対応が必要となるのです。
その他、動脈硬化ではなく血管の痙攣によって冠動脈が狭まることで胸が苦しくなる冠攣縮性狭心症や、より末梢の細動脈や微小循環レベルで虚血が起きる微小血管狭心症という病気も存在します。
冠攣縮性狭心症は、とくに夜間から早朝にかけて、安静時に症状が現れるのが特徴です。
微小血管狭心症は、2010年代後半に提唱された新しい疾患概念で、閉経後女性に多く発症し、通常の心臓カテーテル検査では異常が認められません。

安定冠動脈疾患の診断と治療

診断について

まずは問診によって、症状や危険因子の評価を行います。
典型的な狭心症症状は、①胸の真ん中あたり(または首、あご、肩、腕)の締め付けられるような痛み、②運動や精神的ストレスによる症状の誘発や悪化、③安静やニトログリセリン使用によって5分以内に症状が落ち着く、といった特徴があります。
危険因子には、年齢(高齢者)や性別(男性)の他、喫煙、糖尿病・高コレステロール血症(脂質異常症)といった動脈硬化を引き起こす持病があること、冠動脈疾患の家族歴などが挙げられます。
続いて、心電図検査や心臓超音波検査、血液検査によって、さらに詳しい評価を進めます。
当院で行える評価はここまでで、さらに詳細な検査が必要な患者様には、総合病院などの連携施設を紹介いたします。
具体的には、次のステップの検査として、冠動脈CT血管造影や、負荷イメージング(負荷心筋血流SPECT画像や負荷心筋血流MR画像など)を行い、その結果によって必要と判断された場合には、心臓カテーテル検査(侵襲的冠動脈造影検査)を行うという流れになることが一般的です。

治療について

安定冠動脈疾患に対しては、これまで心臓カテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)を行うことが一般的でした。
狭くなった冠動脈を内側から拡げ、血流を改善させてあげる(血行再建)というコンセプトの治療です。
一見理にかなった治療に思えますし、日本でも当然のように数多く行われてきました。
ところが実は、この治療が本当に安定冠動脈疾患の予後を改善するのか、長らく明確なエビデンスを示すことはできていなかったのです。
そうした中、2020年に公表されたISCHEMIA試験が大きなインパクトを与えます。
早期からPCIや冠動脈バイパス術(CABG)によって血行再建を行ったグループと、至適内科治療(適切に処方された薬による治療や生活習慣の改善)を優先したグループとの比較において、心血管死や心不全の発生率、さらには全死亡の発生率においても差がなかったのです。
こうした最近のエビデンスによって、安定冠動脈疾患に対する管理・治療戦略は見直しが必要となりました。
至適内科治療を、全ての安定冠動脈疾患患者様にもれなく実践することが、現在の基本的な治療コンセプトとされています。
具体的には、症状緩和を目的とした硝酸薬(ニトログリセリン)、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、そして心血管イベント予防を目的とした抗血小板療法(アスピリン)、脂質低下療法(スタチン)が挙げられます。
これらの薬物治療に加え、生活習慣の改善(運動・食事療法、禁煙、血圧管理)を並行して行っていくのです。
ただし、PCIの重要性が失われたわけではないことも強調しておきます。
後述する急性冠症候群(特に急性心筋梗塞)に対しては、迅速なPCIこそが最優先の治療となりますし、安定冠動脈疾患においても冠動脈の起始部に病気がある方や、至適内科治療で症状コントロールがつかない方に対しては、血行再建を行うことが推奨されています。

急性冠症候群の診断と治療

診断について

急性冠症候群の診断は一刻を争います。
急いで途絶えた冠動脈の血流を再開してあげないと、強い胸痛が続くだけでなく、心臓へのダメージも時間とともに拡大しますし、いつ致死的な不整脈が発生し心停止に至ってもおかしくない状態が続くからです。
救急車で病院に搬送される場合がほとんどですが、稀にクリニックを歩いて受診される方もいらっしゃいます。
ただちに、心電図検査、心臓超音波検査、胸部レントゲン写真を組み合わせ、診断確定と重症度評価を行っていきます。
また血液検査において、心筋トロポニンというバイオマーカーを測定することも診断において重要です。
診断がつき次第、全ての検査結果が揃っていなかったとしても、治療を開始する必要があります。
この治療こそ、前出の心臓カテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)です。
冠動脈内にカテーテルを用いてアプローチし、血管が詰まってしまった部位を内側から風船で押し拡げ、さらに金属性のステントといわれる筒を設置してくる、というのが一般的なPCI治療の流れになります。
PCIには、大掛かりな設備も必要になってきますから、クリニックで実施するのは困難で大きな病院で行われるのが一般的です。
当院でも、PCIを院内で行うことは不可能ですが、診断や重症度評価に必要な検査機器は一通り揃っていますので、診断をつけることは可能です。
急性冠症候群と診断した患者様には、その後速やかに連携先の総合病院にご紹介をさせていただきます(場合によっては救急車を手配いたします)。
ただし、急性冠症候群は、先に述べた通り極めて緊急を要する病気ですから、持続する強い胸痛が突然起こった場合には、時間的ロスを無くすためにもすぐに救急車を要請し、PCI可能な医療機関で診療を受けていただくことをお勧めいたします。